フィンランドの教育「いじめはどこでも起きる」前提で対応

<やる気がカギ フィンランドの教育>(上) 教育立国を自任し、国際的な学力調査「PISA」でも好成績を収めてきた北欧のフィンランド。約十年ぶりに改定された学習指導要領は子どもたちの「やる気」の育成に重点を置き、昨秋から小学校での実施が始まった。五月半ばに訪れた教育現場の様子を二回にわたって紹介する。(竹上順子、写真も)
楽しんでこそ身につく「考える力」

 首都ヘルシンキの隣、車で約三十分のエスポー市にある小学校。一、二年生クラスでは児童八人が、二、三人ずつのグループでボードゲームに興じたり、テントウムシ形のおもちゃを走らせたりしていた。

 遊んでいるのではない。「プログラミング」の学習の一コマだ。指導要領の改定で、昨秋から必修化された。IT社会で求められる基本的な技能との位置付けで、日本も二〇二〇年度から小学校に導入する。

 校長のミッコ・レッパネンさんは「ボードゲームは論理的思考を学べる。おもちゃは、あらかじめ指示した動きをする教材。ともにプログラミングの基礎につながります」と説明する。楽しい活動を「つかみ」に授業を進めていくことは、よく行う工夫だという。

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ボードゲームで論理的思考を学ぶ子どもたち=フィンランドエスポー市で
 新指導要領は、これからの時代に必要な知識や問題解決能力の獲得に加え、学びへの興味や、やる気を高めることを「ゴール」とする。「面白い」と感じることで「もっと学びたい」という気持ちが芽生える、そんな好循環を描く。

 その狙いは「学び続ける人」を育てること。急速な技術革新やグローバル化が進む社会では、学校を卒業した後も知識や技能の更新は必須。国家教育局のティーナ・タハカさんは「大切なのは考える技術を身につけること。そして、それは自分から勉強して得られるものです」と説く。

 何を学ぶか、だけではなく、学び方の学習が今、求められている。新指導要領が定める「事象に基づくテーマ別学習」も、学ぶ力の育成を目指す。と同時に「子どもたちの個別の学びへの支援も必要です」と教育文化相のサンニ・グラーン=ラーソネンさん。「どの子にも学校で成功体験をしてほしい。大切なのは、子どもたちの幸福だから」
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 子どもの「やる気」を高めるため、工夫を凝らす教師たち。二十七日掲載の(下)では、教師が力を発揮できる仕組みを紹介する。
◆いじめ対策、9割超の学校でプログラム

 フィンランド政府は、いじめ対策にも力を入れる。いじめは子どもたちの幸福や安全な学習環境を損なうとの考えからだ。2009年から、対策プログラムを本格的に導入した。

 プログラムは政府の要請を受けた大学が教育現場を調査し、科学的な研究に基づいて作成。いじめの場面で多数を占める「傍観者」となる子を減らし、いじめを防ぐ側にどう導くかに重点を置く。授業に加えてオンラインゲームを活用。実際にいじめの場面に遭遇した場合、どう行動すればいいかを個別に学ぶ。

 「いじめはあってはならない」「学級運営の失敗」と見なされがちな日本と違い、フィンランドでは、いじめはどこでも起こるとの共通認識がある。いじめが分かった時は担任に抱え込ませず、学校内のチームで対応するのが特徴だ。

 国内の9割超の小中学校がプログラムを実施。いじめ件数の減少といった効果が出ているという。

フィンランド> 人口約550万人。義務教育は6歳のプレスクールと7~15歳の総合学校(小中学校に相当)。2014年に義務教育を修了した生徒の進学先は高校52%、職業学校42%。高校卒業後は大学(全国14校)、職業学校卒業後は応用科学大学(同26校)への進学が多いが、コース変更もできる。学費は大学院まで無料。給食費は高校まで無料。

 

〈情報ソース〉

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201706/CK2017062302000196.html